2022.11.17
宮城県2022.11.17
地魚は、やさしさ。vol.02
株式会社センシン食品

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チャレンジに向けての想い 
「水産業界って、売り上げのほとんどを1社が握っているような状況が結構たくさんある。それは結局、会社の命運をサラリーマンの担当者1人の裁量に任せてるっていうこと。経営的に見たらそんなに危ないことはない」そう考えて、震災後、B to Bのビジネスはやってこなかったそうです。今回は大善さんにとっても初めてのチャレンジです。「今までは、B to Cの市場でガンガン行こうぜと。今回はB to Cの横展開。既存の商品を他のところに持っていってみようという試みなので、結果はわからないけど、経験としてまずはやってみようと」 

センシン食品の「漬け丼」 

センシン食品の漬け丼は、そのままお刺身で食べても十分美味しい、鮮度の高い素材を使っています。鮮度の秘密は、ワンフローズン加工。獲れたての良い状態で瞬時に冷凍できるプロトン凍結機※1を使用しています。 
化学調味料や保存料不使用なのは、魚の味をしっかり味わってほしいから。魚の味がわかるように、濃いタレを使わず、塩分を薄めに設定していることもポイントです。 
商品サイズはコンパクトで冷凍庫にするっと収まる嬉しい大きさです。“魚のおんちゃま”のロゴも大善さんの作。 
「これ、カレイなんですよ。魚のデザインでカレイを使うところってほとんどないんですよ」楽しそうに話す大善さん。カレイは地元・相馬が力を入れている魚。そんなところからも、地域、仲間への想いが感じられます。 

※1プロトン凍結機 細胞が壊れないので解凍してもドリップが非常に少なく、味の劣化が最小に抑えられる技術を導入した凍結機 

喜んでもらえるスパイス 

やっぱり商品は売れてなんぼ。小規模で頑張ってますとか、こだわりを示しても、売れなければ意味がありません。 
「お金を出して買ってくれるお客さんが、定価百円のところを『百二十円出してもいいわ』と思ってもらえることに、個人的に喜びを感じますね」そんな大善さんだから、品質はもちろん、価格やコストにはしっかりとこだわります。 

大きくしないで、目の届く範囲で 

規模を大きくすれば思わぬ事故も増えます。小回りの効く規模感を大切にしているのは、目が届き衛生管理もしやすいから。保存料・化学調味料不使用の商品はその賜物です。

大善さんの考える地魚の魅力人をやさしくする力」 

「地魚の大きな魅力は、魚を獲っている漁師さんのことを、加工する者がよく知っていること」だという大善さん。 
「人柄や仕事に対する思いなども知っていると、作る側にも想いがのりますよね。入荷した魚が抜群に良かった時、どんな努力や気遣いが船上で行われたか、想像がつく。 だから、やさしい気持ちで仕事ができるし、いい魚が上がってくれば、まるで親戚が大会で優勝したような誇らしさも感じる。
加工する側も人間だから、つまらないなーと思いながら仕事するとつまらなくなるし、細かいところで商品のクオリティにも差が出るように感じます。楽しく仕事する要素として、漁師さんの顔の見える地元の魚はすごく大きいと思う」 
命懸けで魚を獲ってくる漁師さんと、その苦労を知っている加工業者さん。
その関係性が品質に与える影響はあまり知られていないかもしれません。 
やさしさの持ち寄りあいが、良い仕事に繋がっています。 

みんなで仲良く協力し合う大切さ 

水産業全体の課題について、大善さんはこんなふうに話してくれました。 
「隣同士でバチバチしすぎている。みんな水産業を盛り上げつつ利益をしっかり上げるという目標は共有しているんだから、協力しあって走り出せば、お互い儲かるし、お魚嫌いの人も減ると思うんですよね」 
最近子どもが生まれたばかりの大善さん。プレイヤーの感覚というより、一つ上のレイヤーで物事を見ていく必要性を感じるようになりました。そのこともあってか、みんなで仲良くやらなければ、外資系や他所の大企業に負けてしまうとより強く水産業の危機感を感じるようになったと言います。 

水産業の未来に向けて 

今日本では水揚げ量が激減しています。 

「地球温暖化による環境変化も考慮すると、魚種依存の商売はやめた方がいいと思う。漁業自体、自然の水揚げに依存している時点で、元々ハイリスクな商売であることは間違いありません。しかも、小規模事業者が多く、後継者がいない。リスクだらけなんです。にもかかわらず、1魚種だけを処理する工場のような、魚種に依存した仕組みが多く存在する。 もしその魚種が上がらなくなったらどうするんだろうと。 
全体量は減っているけれど、水揚げがゼロにならない限り、その中でやっていく」と大善さん。 
リスクだらけで変化の激しい水産業だからこそ、自分もどんどん変わっていかなければならない。未来はその時になってみないとわからない。とにかく、今、今日やれることを一生懸命やるのだと。 

水産業の可能性 

「水産業ってコンテンツとして面白い」と大善さん。 
「漁師さんたちって、ヤンキーっぽいけど、人間味に溢れているんです。そして、一つミスしたら命を落とすような仕事をしている。現に年に数人は海に落ちたり、網に引っかかったりして亡くなっています。日々、死と隣り合わせに生きているんです。漁業の怖さに立ち向かうためにアドレナリン全開なのかもしれませんが、底抜けに明るい」 

漁師さんたちのエピソードには “ONE PIECE(ワンピース)”に出てくる海賊たちを彷彿とさせる、カラッとした潔さと日常を超越したエネルギーが満ちています。 
“そうま食べる通信”で、漁師生活体験するツアーを開催したとき、漁師さんとの関わりも含め参加者が楽しそうだったことが印象的で、漁業は観光や動画コンテンツとしての可能性を秘めていると感じているそう。 
漁獲量では測れない漁業の未来は、新しい形でも広がっていくのかもしれません。 

文・写真(3、4、5枚目):石山静香