2022.11.15
宮城県2022.11.15
地魚は、やさしさ。vol.01
株式会社センシン食品

  • 宮城県
  • 株式会社センシン食品

敏腕マーケターが手がける「旬の地魚漬け丼セット」 

宮城県名取市閖上(ゆりあげ)。 

2022年6月、「かわまちてらす閖上」に閖上ばら海鮮のお店「閖上海鮮丼せんしん」がオープンしました。 
このお店を手がけたのは高橋大善さん。株式会社センシン食品の専務取締役であり、ECサイトやウェブサイトのデザイン、システム構築からウェブマガジンの運営、執筆、写真撮影、そして動画制作…と多方面に活躍するクリエイターでもあります。 

運営会社の株式会社センシン食品は、2007年に福島県相馬市原釜港にて創業、これからという時に東日本大震災で工場が全壊。2016年に宮城県名取市閖上へ工場を移転し、再出発しました。 
早くからECサイトの開発に着手、鮮度の高い原料で、地場産を中心とした鮮魚をワンフローズンで加工。さらにプロトン凍結機(電磁場凍結機)※1 で、高水準でおいしさをキープしています。
地に足のついたマーケティングと小回りの効く規模感で「売れる」商品を提供し、人気を博してきました。保存料・化学調味料不使用の薄味仕上げによる「旬の地魚漬け丼セット」は、時期によってセット内容が変化し、季節も楽しめる人気商品です。 

※1プロトン凍結 細胞が壊れないので解凍してもドリップが非常に少なく、味の劣化が最小に抑えられる技術 

バンドマンからの転身 

福島県相馬市で3人兄妹の長男として生まれ育ち、バンドデビューを夢見て上京。震災後の2014年に相馬市にUターンしました。 
「1年くらいバンドやって東京にいたら、自分はもう東京にいたくないな、と。ここで子育てをするとか想像したり、人が多い満員電車に揺られて人生送るとか、嫌だと思った。ちょうどその頃、実家の両親たちが困っていることもわかって」 

ECサイトの立ち上げ 

帰郷してすぐ、一からECサイトを立ち上げた大善さん。システムもデザインも全くわからないまま、当時世に出て間もないネットショップ作成サービスを活用してショップを構えます。全く未経験だった大善さんは、福島県主催の通信販売支援事業の勉強会に参加し、ECサイトの販促を学びます。そこでは、ECサイトの基本やノウハウのみならず、今なお付き合いの続く仲間ができるなど、様々な収穫もありました。 
8年目となる今年は、通販部門が会社全体の売上の30〜40%を占めるまでに成長しています。 

そうま食べる通信に参加 

2015年創刊の“そうま食べる通信”に立ち上げから参加(2020年より休刊)。“食べる通信”とは、食のつくり手を特集した記事と、彼らが収穫した食べものがセットで定期的に届く“食べもの付き情報誌“。つくる人と食べる人のココロをつなぐという主旨で、全国で発刊されています。 
「最初はウェブサイト周りのことができるからという理由で声をかけられたんです。ところが、創刊準備号を出す段になって、入稿まで時間がなく、とてもデザイン会社に出せる状態じゃない。そこで自分たちでやるかって話になって。それまではデザインソフトに触ったこともなかったんですが、悪戦苦闘しながらなんとか仕上げた。写真や取材も、その頃から始めました」 
 

元々クリエイティヴなことが好きだった大善さん。2015 年から5年間で20〜30人の漁師さんを取材。その経験が生きて、自社のECからウェブサイト、ウェブマガジン、写真撮影、動画制作、デザインまで全部自分で手がけるようになります。「常に新しいことをやってみたいんですよね。今の仕事はクリエイティヴを生かせるし、結果もすぐに見て対応できる。楽しく仕事できていますね」

 

物事を他責にしているうちはうまくいかない 

今でこそ、順風満帆、前のめりなくらい前向きな大善さんですが、失敗を他のせいにしていた頃は本当に結果が出なかったそうです。「魚ばかり捌いていて、時間が取れない。それで結果が出ないのだから、全部親父(社長)のせいだ。もっと通販に時間を割ければ売上が上がるのに、くらいに思っていたんです。『環境をいかにして変えられるか。環境すらも自分のせいだ』と思えるようになってから、全てがうまくいくようになりました」 
ポジティブな自責の念を抱くきっかけはなんだったのでしょう。
「当時、福島には外から魅力的な人がたくさん入ってきていたんです。そういう人たちとの交流の中で『かっこいいな』、『こんなふうになりたいな』とか『こんな面白いことやってるんだ』と刺激を受けることが多かった。いろんな人に触れらたからっていうのはあるかもしれませんね」 

大善さんは、場所やタイミング、人との出会いの中からチャンスを掴んだひとりです。 

コロナ禍で売上急増 

2016年に閖上に工場を再建して以来、会社の売り上げは目減りする一方。 
でも、とにかくお尻に火がついた状態で全力疾走し、まさに自転車操業を続けていた2019年、コロナ禍に。 
コロナ禍は転機となります。通販事業の売り上げは急増。その他、量販向けの委託事業なども入ったおかげで資金繰りは楽になり、余剰利益も出始め、先行投資も少しずつできるように。 
コロナ前の売上から、2019年には2倍、そして2020年には4倍になり、震災前の売上にあと少しで届くところまで来ました。 


商品開発のロジック 

大善さんの商品開発には、しっかりとしたロジックがあります。「やはりきちんと市場をリサーチしないと。闇雲に商品作ってもダメ。僕は失敗から多くを学びました。ECの場合、市場が結構簡単に見える。何が売れていて、何が売れてないか。売り上げ規模を測るのは簡単なんです」 
しっかりと売れている商品には、市場がある。それがなぜ市場で売れるのかを考える。価格なのか品質なのか、産地のブランドなのか…。また、自社で作ったとして、その商品に勝てるか。どこを落とし所にするのか…。それは試行錯誤の賜物の、肌感覚のロジック。やりながら学び、経験で付け足しながら、売り上げは順調に伸びていきました。 


マーケティングのロジック 

「魚屋はどうしても魚種で売りたくなっちゃうんですけど、商品は需要で売らないとダメ。お客さんが買う理由は魚種ではなくて。たとえばうちの場合、金頭(カナガシラ)は『骨なしの一口サイズの白身魚フライ』なんです」 
魚屋だけど、魚屋に染まり切らない感覚を持つ大善さん。データをフラットに読み取る力。物事に素直に納得し、行動できる臨機応変さ。単に若いから、外の世界を知っているからというだけではなく、そういった大善さんの強みがあったからこそ、構築できたロジックです。 
今回開発に取り組んだのは「旬の地魚漬け丼セット」。
「『漬け丼』には、しっかりと市場があって、売れている商品がある。しっかり売れているということは、漬け丼という商品が欲しいお客さんはいっぱいいるということ。そういうお客さんたちに比較検討されたときに買ってもらえる理由作り、ブランド作りや価値作りを粛々とやるしかない」と大善さん。“そこに材料あるから作ってみました”ではなく、経験とロジックでちゃんと売れる理由を作っていく。“新鮮な〇〇だから”では、往往にしてうまくいかない。大善さんは、経験値として断言します。

後編へ続く

文・写真(3、4枚目):石山静香