2022.12.16
福島県2022.12.16
地元の人が通う、町のタコ屋さん
~“常磐もの”タコのおいしさを届けたいvol.02~
カネセン水産有限会社

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商品開発で得た、次への展望

これまでは自社で完結する商品でしたが、今回は、相馬の仲買会社で“目利き”のマル六佐藤水産、石巻の東日本フーズ株式会社に協力をいただき開発を進めました。「同業者との連携も、委託製造も今回が初めて。新しい試みで刺激になりました」

福島の港に水揚げされた「常磐もの」の柳だこを、食べやすく断面を広く薄くカットト。 福島県相馬産のあおさ海苔には、三陸産スルメイカとつぶ貝を加え、白醤油に漬けこみました。流水で簡単に解凍でき、ごはんにかけるだけ。たったの5分で「海鮮ぶっかけ丼」の完成します!

予想以上の仕上がりで、これをきっかけに「自社でもどんどん新商品を作れるようにしたいと」意気込みます。“常磐もの”のタコを全国に広げていくための、次の一歩が見えたようです。

地域に愛される加工場

現在、個人のお客さまは全体の売上の5〜7割を占めるそう。入り口にはのぼりだけで、看板を出してないのに、加工場まで買いに来る人がいるのです。

「わざわざ調べてきてくれるんです。1個丸ごと買っていく人もいる」

失礼ながら見た目は小さな小さな加工場(初めて訪れた際には、のぼりを下げた後で私は迷子になりました…)…なのに、普通にお客さんが買いに来るといいます。

「地元のお客さんにも喜んでもらえるよう、ある程度種類も増やしました。

今回のぶっかけ丼も、ここでも売って、地元の人たちに是非食べてもらいたいと思っています」。

魚食文化の発信
一度食べてもらうまでにハードルがあるのが魚食。

「食わず嫌いを減らしたいんですよ」と剛士さん。

魚といえば、『煮る』、『焼く』、『刺身』と調理方法が決まっているようですが、実はさまざまな食べ方があり、料理があります。

「アヒージョとかもいいですね」いろんな食べ方やレシピを提案したいと考えています。

「特に若い人は、共働きも多い。忙しいから手間をかけずに食べられるものを好まれますね。手軽に食べられる状態のものを作っていけば、魚を食べる機会も増えるんじゃないでしょうか」実際に対面販売で、お客さんの感触を感覚的に掴んでいる剛士さん、「既存のものにこだわらず、新しいものに挑戦したい」。どんな時も迎え入れる低姿勢で、決して威張ったり、上からものを言ったりしません。そんな剛士さんの言葉から、確かな信頼性を感じます。

描く未来へ
震災前までは港として活気のある街だったいわき。水揚げ量も漁船も減り。タコの加工業者だけでも10社から5社に減っています。
「自分たちが子どもの頃、小名浜や近隣の港には船がたくさん停まっていました。あの風景をもう一度いわきの浜に戻したい。子どもたちにとって、水産業が“なりたい職業”になってくれたら最高です」と剛士さん。

ちなみに、二人の息子さんに、家業を継げと言ったことはないそうです。朝は早いし、冷たい水を使うタコの加工は、決して楽な仕事ではありません。「自分も嫌になることもありますよ。でも、やっぱりタコを加工する仕事が好きだから続けてこれた」と剛士さん。「息子に継いでもらいやすいように自分でもう少し頑張らなくては」謙虚に、次の世代を見据えています。

陽だまり夫婦

「結婚する時、(タコは)やらなくていいって話だったんですけどね」と麻紀さんがくすっと楽しそうに言うと「なんか騙したみたいになっちゃってますよね」とちょっと照れくさそうな剛士さん。

麻紀さんはもともと医療事務のお仕事をされていて、漁業や水産業とは無関係の家庭から嫁ぎました。妊娠出産を経て、剛士さんを手伝い始め今では『いてもらわないと困る』存在です。取材中も終始笑顔を絶やさず、ひだまりのような印象がありました。「朗」の字がよく似合う、朗らかさんです。

剛士さんも誠実そのもの。絶対に質の悪い仕事はしない、手は抜かない。そういった人柄が滲み出ていて、温かい方。どんなに忙しい時に連絡しても、こちらがホッとするような明るい声が返ってきます。とにかく、あったかみのあるご夫婦。

取材の最中、夕暮れ時にタコを買いに来たお客さまがいらっしゃいました。

「手土産のお菓子代わりだったり、晩御飯とか酒のつまみに買っていってくれるんですよ」と嬉しそうに笑う剛士さん。すっかり“地元の味”として地域に定着しています。

「茹でたてのが、やっぱり一番美味しいんですよ」その日の朝、茹でたばかりのタコは絶妙な弾力、ほんのり塩加減に、ほんのりあまくて旨い。足1本なんて、あっという間になくなっちゃいます。

タコにうるさい大阪出身の家人も珍しく「これは醤油をつけてはいけないやつだ」と素材の味を堪能していました。 今まで、特に気にとめることはなかったタコですが、あの日以来、スーパーでもタコの存在が気になって仕方がありません。
タコはタコ屋さんで買わないと!と、地元の人がタコを求めて、タコ屋さんに走る気持ちがわかりました。(まとめ買いして来たので、今、我が家の冷凍庫は幸せでいっぱいです!)

江名港の夜明けと共に
みんなが寝ている間に、“美味しい”は作られていました。
自然の恩恵である海の幸と、それを最も美味しく加工し、届けてくれる人がいる−美しい夜明けの海を思い出しながら、改めて感謝の気持ちが湧いてきました。

文・写真:石山静香