2023.02.27
福島県2023.2.27
アンコウをもっと手軽に
~原点は子どもたちの笑顔のため~ vol.02
有限会社海幸

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地産地消と手作業へのこだわり

海幸が商品を製造する上で最もこだわるのは魚の鮮度だといいます。
「そもそも、水揚げされたばかりの鮮度が良いものを使って当たり前です。その上で、すぐに内臓処理をすることが大切です。この処理のスピードが命なんです」と遠藤さん。

すぐに下処理をすることで、魚臭さを抑え新鮮さを保って魚のおいしさをそのままに届けることができるのだそうです。海幸では、海のすぐ側に加工場があるからこそのスピードで、鮮度のよい魚を下処理、最もおいしい状態で商品づくりをしています。「これこそ地産地消の地場加工なんです」と遠藤さんは胸を張ります。

さらに、手作業で1本1本骨を丁寧に抜いて、骨なし加工を行っています。手作業で骨を取り除く作業は気が遠くなりそうですが、工場にお邪魔してみると驚くことにそのほとんどが手作業で行われていました。

取材のこの日は、職人さんが一つひとつ包丁で大きなカジキをカットしていました。思わず「もっと機械化されて作られているのかと思っていました」と言うと、遠藤さんは「人の手でしっかりものづくりしているんですよ」と力強く答えます。
いわきフライも、骨抜きから成型、フライ加工まで一貫して人の手によって作られています。

愛情を込めた商品づくり

ここまで手間をかけて商品を作るのには、どんな信念があるのでしょうか?
「僕たちは学校給食にも食品を提供しています。子どもたちの喜ぶ顔を見たら、裏切るような商品は絶対に作れませんよ」と遠藤さん。
「子どもたちの顔を見るとやっぱり違いますか?」と質問すると、目尻を下げながらこんな話を聞かせてくれました。

「会津の小学校へ出前授業で行ったとき、一緒に給食を食べる機会があったんです。私たちが作ったカジキカツがメニューだったのですが、食べ終わった子たちが残り物をおかわりするジャンケンをするんですよね。先生が『今日は4人ね!』というので、4つも残っているのかあと思って見ていたら、1個を4等分にしているんですよ。小さなカジキカツを4等分にしたら、もう一口サイズです。それをジャンケンで勝った子が『よっしゃー!』って叫びながら、うれしそうにお皿に乗せて自分の席に帰ってくるんです。あの姿を見たら、目頭が熱くなりましたね」
うれしそうに話をする遠藤さんもまた、子どものような笑顔です。

常磐沖で獲れる豊かな海の恵みを子供たちに伝えたいと思うからこそ、安心安全にこだわり、手間ひまをかけ愛情を込めて商品づくりをしているのです。

ご飯やパンと合わせて気軽に!

いわきフライは家庭で簡単に調理できることも特徴です。180℃の油で4分揚げるだけでプリプリ食感、揚げたてのアンコウのフライがいただけます。
そのままいただいてももちろんおいしいのですが、ご飯やパンに合うように、フライには特製のオリジナルソースが付いています。

「ソースカツ丼をイメージして、普通の中濃ソースよりも甘めに仕上げています」と遠藤さん。ソースには福島県産の桃、梨、りんごが入っているので甘酸っぱくフルーティーな味わいも楽しめます。

遠藤さんおすすめの食べ方は、特製ソースを水で2倍に希釈し、そこに揚げたてのフライを浸すこと。こうすることで、ご飯やパンにソースが染み込んでジューシーな味わいになるのだそうです。

早速、家でバーガーにしていただいてみました。サクッという食感の後に、プリプリのアンコウの旨味がジュワッと口に広がり、甘酸っぱいソースとパンの相性が抜群!栄養価の高いアンコウを手軽においしくいただけるので、子どもを持つ親にとってもありがたい一品です。
アンコウの白身部分は魚全体からわずか20%ほどしか取れないそうです。それを贅沢に切り身にして成型したものをフライにしているので、食べごたえも十分すぎるほど!
アンコウとパンという意外な組み合わせですが、ソースが染みこんだジューシーなフライの食感とマッチして。なんとも言えない幸せな気分に満たされました。

自分たちの手で届けたい

海幸では加工品の製造に力を入れてきましたが、今後は積極的にイベント出店などをしてお客さんに直接商品を届けることもしていきたいといいます。
「私たちは加工業なので本来なら裏方の仕事です。でも、給食をうれしそうに食べる子どもたちの顔をみていたら、もっと自分たちの手で直接届けていきたいと思うようになりました」と遠藤さん。

震災やコロナ禍などさまざまな困難を乗り越え、自分たちから動いていくことの重要性を感じたからこそ、お客さんと顔の見える関係づくりにも力を入れていきたいといいます。

「やっぱり、震災時に動きを止めなかった人たちは今でも強いです。福島の海を取り巻く環境は課題に溢れていますが、ピンチの時こそチャンスだと思って私たちも動き続けていきたいです。そうすることで、この地の豊かな魚食文化を守っていくことができると思うんです」

家庭で調理を敬遠しがちな魚をもっと身近に、手軽においしく食べられるようにと商品作りに励む海幸。そこには、福島の海の恵みを食卓に届けて笑顔にしたいという想いがありました。
子どもたちの喜ぶ顔を想像して、今日も真摯に商品作りに向き合っています。

文・写真:奥村サヤ