2022.12.8
宮城県2022.12.8
美味しいは、美しい。
~ホヤの聖地から届ける極上のホヤvol.02~
株式会社あつみ屋

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ホヤ漁師からの挑戦状

そもそもホヤはあまり馴染みがなく、苦手とする人も少なくありません。そんな中で今回は、ホヤ未経験の方向けに、本当に美味しいホヤの発信を目指します。

生産者の強みを生かした言葉通りの“採ってすぐ” ―。船から目と鼻の先、距離にして1分の加工場で作業します。朝採れホヤを即座に加工するため鮮度は抜群です。「特に是非味わっていただきたいのはホヤ1つに付き1ヶ所しかない、旨味の強い希少部位“へそ”」とのこと。食べてびっくり、“へそ”は「ホヤ=エグみ」の概念を覆します。じゅわ〜っと、遠くからほのかな甘みが感じられる逸品です。

気温が上がる前の真夜中〜明け方にかけての漁。1つ1つを雑に扱わないこと。水揚げから加工、発送に至るまでの渥美さんの細やかな配慮が結果として鮮度に繋がります。殻付きのホヤですが、繊細な果物くらい丁重に扱う印象です。

“『ホヤ漁師からの挑戦状』いいがら喰ってみてけらい「ほやチャレンジセット」”というポップなネーミングで、お試し用の少量サイズでへそホヤ、むきホヤ、殻付きの3種をセットに商品化。非常に短いホヤの季節の採れたてを加工し冷凍します。

田山会長が「新鮮なうちに適切な処理をし、むき身で冷凍処理したものは、本当に美味しい状態で食べられるんです」と教えてくれました。“見た目”や“固定概念”ではなく“本当に美味しいホヤ”を届ける商品を作ることで、ホヤの新しい市場の開拓を狙います。

ゆくゆくは、地元出身の方やホヤに馴染みのある“ホヤ好き”向けの商品も展開していきたいと、渥美さんの夢は膨らみます。

「生産者」として、正しいホヤの魅力を伝えていく

「生産者としての実績を作っていきたい。販路や食べ方の事例を作りたいんです」渥美さんが「ほやほや学会」や「フィッシャーマン・ジャパン(https://fishermanjapan.com/ )」※3 で活動する理由の一つです。

※3フィッシャーマン・ジャパンとは:漁業のイメージをカッコよくて、稼げて、革新的な「新3K」に変え、次世代へと続く未来の水産業の形を提案していく若手漁師集団。(HPより抜粋)

知名度の高い牡蠣の場合、生産者も多くて養殖の歴史が長い分、規格などがしっかり定められています。一方、まだまだ流通が限られているホヤは「新しい基準をつくりやすいし、メジャーでは無いからこそ挑戦しがいもあるんです」。ホヤに高いポテンシャルを見出した前向きな挑戦が見て取れます。渥美さんは「水揚げして終わりでは、そこまでの景色しか見えないのが業界の課題です。お客様が食べるところまでを考え、商品を届けていきたいです」と意気込みます。

かっこいい大人がいる地域

東日本大震災から11年。1歳だった息子も中学生に。震災後、浜の漁師は60軒から十数軒に激減してしまいました。地元で暮らすのは渥美さんを含めた6軒だけです。ずっと最年少でしたが、最近、20代が1人仲間入りしました。

震災直後から第一線でがむしゃらに挑戦してきましたが「今は育てる側に来た気がする」と渥美さん。「戦後ずっと変わらない水産業が生き残るには、今が転換期です。我々世代がしっかりし、プレイヤーとしてではなく、ここからはプランナーを担いたい。0から1はつくった。1から100にするのは次の世代」と言います。

「息子が漁師を継ぐかどうかは、本人の意志次第。自らかっこいいと思ってやってくれたら嬉しいけれど、強要はしません」こう話す渥美さん。渥美さんが漁業に戻れるようにと準備をしてくれた漁師さんの姿と重なって見えました。かっこいい大人がいて、そんな大人の背中を見て育つ子どもたち。浜と地域は、長い年月、憧れが継承されて自然と保たれてきたのです。

取材中、何度か聞いた渥美さんの「ありがたいよね」「嬉しいよね」という言葉。しみじみと温かく、耳に残っています。早朝の漁から戻り、旅館に用意していただいた朝食を前にした時にも「嬉しいよね」と渥美さん。小さなことに感謝を重ねる、穏やかな漁師さんです。

美味しいものは“美しい”

渥美さんのホヤの何がすごいかというと“美しさ”です。まず、水揚げしたホヤの綺麗さが際立っています。海から水揚げした直後なのに付着物がなく、鮮やかな橙の色。

実は私自身、三陸の生まれですが、こんなに鮮やかなホヤを見たことはありませんでした。加工場で、ささっと剥いてもらった身も、ずっと眺めていたいくらい見惚れる美しさでした。もちろん、美味しくいただきました。

昔、知り合いの仲買さんに美味しい魚介の見極め方を「美しさ」と言われたことを思い出しました。

後日―。

渥美さんに連絡するとホヤの採れる時期にしか加工ができないため「全部1人でやるのは予想以上に大変でしたね〜」と笑いながら、連日大忙しの状況を教えてくれました。

ホヤ養殖の新規就業と聞き、実はめちゃくちゃ攻めている人を想像してしまっていたのですが、実際は口下手で頼まれたら嫌と言えないタイプの優しい方でした。

そんな渥美さんが、ホヤを食べたことがない人をあっと驚かせたい!と、満を持して出す今回の“挑戦状”。

「我こそは!」と受けて立つ、そんなあなたに、ぜひ食べていただきたいです!

文・写真:石山静香