2023.01.26
福島県2023.1.24
新しい地元の資源を活かす
~「磐城イセエビ」をブランド化する~ vol.01
上野台豊商店

  • 福島県
  • 有限会社上野台豊商店

福島で伊勢海老? ギャップをブランド化

福島県で伊勢海老がとれることをご存じでしょうか?

福島県いわき市の水産加工業者・上野台豊商店が、いわき市で水揚げされた伊勢海老の加工品を販売すると聞いた時、正直に言って驚きを隠せませんでした。

いわきの伊勢海老って、どんなもんなんだろう?

消費者がそう思うことを見越して、上野台豊商店ではさまざまな挑戦と工夫で、いわきで水揚げされた伊勢海老のブランド化を行っています。

「地元の魚」を新鮮なうちに

上野台豊商店は、1960年創業の水産加工会社です。いわき市小名浜に本社と工場を構え、市場で仕入れた水産物を加工して販売するほか、旬の時期には小名浜の名産であるサンマを生のまま販売することもあります。

代表の上野臺優(うえのだい・ゆたか)さんはこれまでも、いわき市の漁師飯として知られる、サンマをすり身にしてハンバーグのように焼いた「サンマのポーポー焼き」や、地元では主流の食べ方であるサンマやサバの「みりん干し」を、食べやすい加工商品にして販売して来ました。そこには、近年の「魚食離れ」が大きく影響していると言います。

「漁港がある地元小名浜でも、魚食離れを感じています。それがなぜなのかと考えた時、『自分で魚をさばけない』『調理するのに手間がかかる』ということが結構大きいことに気付きました。そうであれば、開封したらすぐに食べられるように、加工業者側が工夫しなければと気付いたのです」と上野臺さん。

その言葉の通り、上野台豊商店には「袋を開けたらすぐ食べられる!めひかり開き干し」や「さばのトマト味噌煮」「さんまのポーポー餃子」など、開けて焼くだけ、温めるだけで美味しく食べられる商品が並びます。

そしてそれらをすべて、市場で仕入れた新鮮なうちに加工することにこだわっています。特に今回商品開発した「磐城イセエビ贅沢姿蒸し」は、注文を受けてから調理し、賞味期限は3日と、新鮮さを追求した最たるものです。

福島県最大級のショッピングモール「イオンモールいわき小名浜」のすぐ近くにある加工場を訪ねると、扉を開けた瞬間に海老のおいしそうな香りに包まれました。


スチームコンベクションオーブンで蒸しあげられた伊勢海老の大きいこと!

「磐城イセエビ贅沢姿蒸し」は、その姿と大きさを目でも舌でも楽しんでもらえるよう、500グラムから1キロのサイズの伊勢海老のみを使ってつくります。

「注文を受けてから、調理して発送します。蒸した伊勢海老を、冷凍ではなくてチルドで発送するので到着したらそのまま食べられますよ」

上野臺さんは、出来上がった伊勢海老の梱包をスタッフに指示しながら、笑顔で教えてくれました。

地元で水揚げされる魚が変わってきた

いわき市で伊勢海老が水揚げされるようになったのは5年ほど前。夏場の6月ころから、2022年は12月になっても水揚げされているとのこと。温暖化による水温上昇の影響だと考えられ、逆に本場である伊勢での供給量が足りなくなるという現状もあるとのこと。「伊勢海老はどこに行ったのかと、三重県の方からテレビの取材が来たこともあるんですよ」と笑います。

ただ昔から、いわきで水揚げされる魚と言えば、サンマやイワシやサバなどが主流。高級食材である伊勢海老を食べる習慣が地元に無いため、当初は東京の市場に流していたのだそうです。

「年々水揚げ量が増えて、現在は5年前の4倍ほどになっています。せっかく地元で伊勢海老が水揚げされるならなんとか活かしたいと思い、サンマの加工食品でも協力してもらっている、いわき駅前でイタリアンレストランを経営するシェフ・北林由布子さんに相談し、商品開発を行うことにしました」

その名も「磐城イセエビ」!感じる手ごたえ

いわきで水揚げされた伊勢海老であることが誰にでもわかるように、上野台豊商店では伊勢海老の加工商品を「磐城イセエビ」と名付けました。

市場で仕入れた新鮮な状態のまますぐ氷漬けにし、加工するものは冷凍、姿蒸しにするものはオーブンで蒸しあげていきます。

「磐城イセエビ贅沢姿蒸し」となる伊勢海老は、オーブンの温度をあえて100度にせず、80度前後に設定。いわゆる低温調理で、1時間蒸します。

「100度にすると、海老の色はきれいに仕上がるのですが旨みが逃げてしまうんです。なので80度でじっくりと蒸します。サイズが大きいので、1回で5匹ずつしか調理できません。1日に出荷できるのは25匹くらいです」

1日にたった25匹、それも注文を受けてから調理するという新鮮さと、500グラムから1キロというサイズの希少性。しかもそれだけでなく「磐城イセエビ贅沢姿蒸し」には、磐城イセエビをより美味しく食べるための、地元食材をふんだんに使ったソースが添えられているのです。

「さっぱりとこってりのソースがいいなと依頼したのですが、いわき市産のネギとレモンを使ったソースと、同じくいわき市産の赤ピーマンと伊勢海老の味噌を使ったソースになりました。どちらもコクのある上品な味わいですよ」と太鼓判。地元いわき市で水揚げされた伊勢海老に、さらに地元農産物でつくったソースを添える。漁業と農業の地産地消です。そのこだわりには、東日本大震災以降、上野臺さんが培ってきた経験と戦略が込められているようでした。

文:山根 麻衣子、写真:熊田 誠

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