2023.01.31
福島県2023.1.31
千年愛されるかまぼこを
~素材と技で本物の味を追求する~ vol.02
株式会社貴千

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千年愛されるかまぼこを作りたい

数々のオリジナル商品を生み出してきた貴千が今回挑むのが「板かまぼこ」です。
「板かまぼこばかり作っていたらダメだ」と方向転換し、創作かまぼこを積極的に売り出してきた貴千がなぜ今、板かまぼこに挑戦するのでしょうか?

「日本でかまぼこが誕生したと言われてから約900年が経つのですが、味や見た目など、さまざまな改良が重ねられてきました。ですが、需要とともに大量生産されるようになり、失われてきたものもたくさんあります。そんな今だからこそ、原点に立ち戻ろうと思ったんです」

「失われてきたものとは……?」と尋ねると、「本物の味」と真っ直ぐな答えが返ってきました。

「かまぼこを作る過程で魚のすり身に水やデンプンを加えれば、どんどん伸ばすことができるんです。そうすることで成型もしやすくなるし、大量に安い商品を作ることができます。色も鮮やかな方が売れるんです。けれど、魚本来が持つ素材の旨みからは遠ざかっているんです」

日本の伝統食材として、素材と製法に徹底的にこだわり抜き、本来の味を感じてもらう商品を作ろう。千年のかまぼこの歴史に敬意を表し、この先千年愛されるかまぼこを目指そうと決意を込めて、商品には「千」と名付けました。

目指すのは、白飯が食べたくなるかまぼこ

「千」の原料は、厳選した白身魚のすり身に国産真鯛、いわきの地酒「又兵衛」を使用。天然調味料だけで味つけをしています。余計なものを削ぎ落とし、素材の旨味を最大限に引き出しているのです。

とはいえ、板かまぼこって大きな違いがあるのだろうか……。

そんなことを思いながら一口ほおばると、噛むほどに素材の甘みが口いっぱいに広がり、粘るような弾力に驚きました。

「魚のすり身をデンプンの力で固めたものってどうしてもゴリっとした食感になるのですが、魚肉だけで作るとつるんと歯に吸い付くような食感になるんです。固すぎず、柔らかすぎず、ぐっと粘るような食感。これが魚肉だけで作ったかまぼこです」

さらに、いわきの地酒「又兵衛」を加えることで、味がまろやかになるのだそうです。魚本来の旨みが後を引き、何度も食べたくなるおいしさです。

「本当においしいかまぼこって白飯が食べたくなるんですよ」と唯稔さん。

言われてみると、板かまぼこはお正月に欠かせない食べ物ですが、おかずとして日々の食卓にのぼるイメージがありませんでした。

ですが、「12月に製造が集中する板かまぼこを通年で食べてもらえる商品にしたい」と唯稔さんは考えています。ご飯のお供を目指した商品づくりは、貴千の挑戦でもあるのです。

古き良きものを継承していくために

「千は自分の中で、まだまだもっとおいしくできると思っています」
そう話す唯稔さんは、今まで積み上げてきたノウハウがあれば、思い描く味と食感を表現できると自信があったそうです。しかし、現実はそう甘くありませんでした。

「正直めちゃくちゃ難しい、今までで一番難しいです。魚肉の質が良い分、味付けや配合のちょっとした違いでブレてしまいます。すり身が擦り上がる状態にもすごく気を使いますし、成型して流すスピードだったり、温度にも気を使います。ひとつとして同じものにはなりません。だからこそ、もっと良い商品になると確信しています」

「千」は言わば、素材そのもので勝負しています。ごまかしが効かない分、職人の腕が試されます。なぜ、あえて手間ひまかけ、難しいことに挑んでいるのでしょうか?

「昔から伝わる技術をしっかり継承して、古き良きものをちゃんと残していきたいんです。今は技術が進化して、人の手を必要とせず機械だけで作れてしまいます。でも、それじゃやっぱり味気ないですよね。時代と逆行しますが、私たちは人の手で作ったものをきちんと伝えていきたい。こんな小さな田舎町でも、いいものを作っているんだと自信を持って胸を張れる商品を届けたいんです」

そんな唯稔さんに大切にしている信念を伺うと「お客さんを裏切らないものづくり」と答えてくれました。その言葉に妙に納得しました。貴千のかまぼこは、本気でかまぼこづくりに取り組んでいるからこそ、何をいただいてもしみじみおいしいと感じるのです。

千年先の未来に残したいもの

最後に、「千」を一番おいしく食べる食べ方を伺いました。

「かまぼこを10等分にして12mmの厚さで食べていただくことで、歯に吸いつくような最高の食感を味わっていただけますよ」

まずは、そのまま何もつけずに素材本来の味を楽しみ、好みでわさび醤油をつけていただくのもおすすめだそうです。

さて、取材から戻ると早速おすすめの食べ方で「千」をいただきました。お醤油をつけてほかほかのご飯と一緒に頬張る。じんわり広がる旨みに「日本人でよかった〜」としみじみと実感しました。

その時ふと、この感覚がこの先の未来にもずっと繋がっていてくれたらいいなと思いました。千年先も愛されるかまぼこを目指して……、貴千の挑戦は続きます。

文・写真:奥村サヤ