茨城県最北部にある小さな港町。北茨城市平潟(ひらかた)町は「あんこう鍋」発祥の地として知られる町だ。
一般的にアンコウは冬の高級食材のイメージが定着しているが、ここでは真夏の禁漁期間をのぞいてほぼ1年中水揚げがあるという。平潟では「あんこう鍋」は、家庭ごとにおいしい食べ方が受け継がれている庶民の味なのだ。
そんな身近な食材であるアンコウを、親子3代にわたって加工・販売してきたのが有限会社齋藤商店。今回、もっと手軽に味わってほしいと「おひとり様用贅沢あんこう鍋」を世に送り出す。
すべての具材とだしスープが同封されており、パッケージのアルミ鍋を火にかけるだけで、コラーゲンたっぷりの滋味深いあんこう鍋を楽しむことができる。この商品にかけた想いを取締役の齋藤美子さんに伺った。
平潟アンコウの加工で80年
齋藤商店の創業は1940年。齋藤さんの夫である現社長・朋弘さんの祖父が設立したのがはじまりだ。太平洋が目の前にある加工場で、平潟漁港に水揚げされるヤナギダコとアンコウをメインに取り扱ってきた。
近年では冬のギフト商品として大手スーパーとの取り引きも行っている。4~5人前の「三代目のあんこう鍋」の販売がスタートすると好評で、消費者のニーズもあり現在は2~3人前のセットも販売するようになった。
「北茨城のあんこう鍋は味噌味がベースなんです。香ばしく炒ったあん肝を味噌と練り合わせ、だし汁で割って入れます。うちの自慢はオリジナルのだしスープです。ほかの商品の製造過程で出る大量のアンコウの中骨を、形がなくなるまで長時間じっくり煮込み、昆布だしを加えています。アンコウの骨を贅沢に使えるのは加工屋だからこその醍醐味ですね」
平潟港に揚がったアンコウを新鮮なうちに処理し、急速冷凍することで、独特のぷりっとした食感が楽しめるようになるという。アンコウの中骨をコトコトと長時間煮込んだスープは、旨味成分が溶け出してコラーゲンなどの栄養もたっぷり。上品ながらもコク深い味わいだ。具材を食したあとは、ご飯やうどん、ラーメンを入れてシメまで楽しめる。
シーズン問わず食べたくなるアンコウ商品を
濃厚な味わいがクセになる、魅力たっぷりの「あんこう鍋」だが、齋藤さんは「実際に食べたことがある人は意外と少ないんです」と話す。
「アンコウは昔から5大珍味の1つとされ、見た目のインパクトも強い魚です。北茨城では『吊るし切り』や水分を加えずに作る『どぶ汁』が郷土料理になっていて、認知度は高いのですが、実際に食べたことがあるという人は限られているんですよね。ここ北茨城市でも提供するお店は意外に少なく、アンコウを食べる機会が限られてしまうのが現状です」
そして、それは「アンコウは冬の食材」「料亭で味わう特別なもの」というイメージが強すぎるためだと齋藤さんは力説する。
「アンコウは冬に獲れるイメージですが、7・8月の禁漁期間をのぞいて1年中水揚げされていますし、四季を問わず近海に生息しています。寒くなると肝は肥大化しますが、白身はもともと淡白で、どの季節に食べてもおいしいんです」
実際に、既存商品の「三代目のあんこう鍋」シリーズも、商品が売れるのは12月から1月というわずかな期間だけ。しかも、家庭用ではなく特別な相手への贈答用として、「あんこう鍋が好きな人に贈る」というニーズに限られていた。
「高級感や特別感があり、食べるには少しハードルが高い」というイメージがあるあんこう鍋を、もっと気軽にシーズン問わず食べてほしい。そんな想いを込めて作ったのが新商品の1人用の鍋セット「おひとり様用贅沢あんこう鍋」だ。
気兼ねなく食べれる一人用「あんこう鍋」
商品にはアンコウの切り身にスープ、野菜がセットされており、パッケージの鍋に具材を入れて火にかけるだけで一人前のおいしいあんこう鍋が完成する。アンコウ以外の具材は大根とネギ、ワカメの3種類のみ。シンプルな具材がアンコウの濃厚な出汁スープを引き立てている。
「具だくさんで作る家庭もありますが、もともと我が家ではあんこう鍋といえば大根、ネギ、ワカメの3種類だけなんです。いろいろ試してみたのですが、最終的に『齋藤商店のあんこう鍋はやっぱりコレだよね』と納得して決めました。馴染みがない方にもアンコウの美味しさを楽しんでいただけると思います」
文・荒川涼子 写真・中村靖治