
「あん」を増量!改良を重ねて最高の味を
「生地を膨らませなくても、『あん』を多くすればまんじゅう自体が大きくなるんじゃないか……」
サンマのまんじゅうをもっと大きくするために、及川社長は生地を膨らませようと考えていたが、そもそも「あん」の量を増やせばいいことに気がついた。「あん」を増やすことでおのずと生地が薄くなるので、味のバランスが良くなりジューシーさも増すはずだ。
そこで、当初は8グラムだった「あん」を思い切って30グラムまで増量した。その結果、見た目も味も市販の「肉まん」に近づき、完成度が高まったという。

生地の味と素材にもこだわり、何度も試作を重ねてきた。通常は水や牛乳で生地をのばすのだが、試しに“豆乳”を使ってみると味がまろやかになりコクが出たそうだ。豆乳は身体にも良い食材のため、採用することにしたという。
「あんも生地も、味が決まるまでは本当に苦労しました。社員を集めて何度か試食会も実施しましたが、それぞれの嗜好が違うので意見がまとまらないんです。そのため、最終的には私が判断を下すことにしました」

おかげで及川社長は毎日10個前後のまんじゅうを試食することになったという。生地が米粉なのですぐに満腹になり「本当に大変でしたね」と苦笑する。
見た目にも楽しい「白・黄色・赤」のまんじゅう
基本となるプレーン味が決まると、次はバリエーションの開発に移った。
「3種類で展開したい」と考えていた及川社長は、カレー味とケチャップ味を考案した。カレー味はシンプルに「あん」にカレー粉を加えアレンジし、ケチャップ味は、あんの上にケチャップとチーズを重ねて3層にし、味の変化を楽しめるようにした。試食をしたシェフからは、「3層にすると製造作業が大変なので、あんに混ぜ合わせたほうが良いのでは?」とアドバイスをされたが、工程が大変であっても圧倒的においしいことから、商品化を目指して進めてきた。

「白」「黄色」「赤」の3種のまんじゅうは、及川社長の狙いどおり食欲をそそられる見た目だ。さっそく試食させてもらうと、サンマの香ばしいかおりが食欲を誘う。
ほかほかの生地の中にはあんがたっぷりと入っていて、かぶりつくとジューシーな旨味が口の中に広がった。魚特有のくさみは感じられず、これなら魚が苦手な人でも食べられるだろう。おやつや軽食にぴったりのボリューム感で、片手で手軽に食べられるのも魅力的だ。
魚の新しい食べ方を提案し続ける
サンマのまんじゅうは親しみを込めて「さんまん」と名付けた。価格は1個300~400円程度になる予定だ。冷凍で販売され、食べるときに電子レンジで解凍すれば、ほかほかの「さんまん」が味わえる。温めるだけなので子どものおやつにうってつけで、忙しいお母さんの味方となるはずだ。
「これまでご飯のおかずや酒の肴になるような加工品を作ってきましたが、いつかは、サンマを使って子ども向けのおやつを作りたいと思っていたので、やっと形にできてうれしいです」と及川社長は笑顔を見せる。

サンマの漁獲量は年々減少しているが、まだまだ及川社長には夢があるという。いつかサンマを使ったお菓子を作ることだ。日本人の食生活は欧米化が進み、魚を食べる量が減ったといわれて久しいが、お菓子であれば手にとりやすいうえ、手軽にカルシウムなど魚の栄養を摂ることができるはずだ。未利用魚のサンマを活用した「さんまん」をきっかけに、今後は新しい魚の食べ方を提案していくつもりだという。
「これからもさまざまな可能性に挑戦し、次世代につなげていきたい」と話す及川社長の目は、未来を見つめていた。
文:赤坂環 写真:川代大輔